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思い出のピアノとビワの木との別れ


2026.3.22


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 終活の一環として、長年住んだ家の荷物の整理を始めて半年以上が経った。後期高齢者が一人で行う仕事は一向にはかどらず、このままでは死ぬまでに終わらないと確信した。周りの人達は、専門の業者に任せるべきだと勧める。確かに、「買取り業者」「廃品回収業者」「遺品整理業者」などなど、多くの業者の広告で溢れている。しかし、多くのトラブルの報道もある。どの業者が信用できるのか、どこで判断すればよいのだろう。最終的には専門業者に任せるにしても、自分でやるべきことはまだあるのではないか。悩む日々が続いた。

 まず、私自身の責任ですべきことは明らかである。「何を残し何を廃棄するかの判断」である。ここで、「原則として廃棄する」ことを決めた。思い出に浸る時間を作らずに判断する必要がある。すると、残すものの種類は意外に少ないことが分かった。家族の写真(アルバム)、卒業証書、30年間の日記などである。ただし、アルバムだけでもかなりの量がある。幸い(?)なことに、ブランド品や貴金属アクセサリー、着物には興味がなかったので持っておらず、「買取り業者」を家に入れる必要はない。

 次なる問題は、廃棄が難しいものの処分である。そのひとつが、67年前に両親が買ってくれたピアノであり、もう一つが、46年前に子供が庭に投げたビワの種が成長して大木になった「ビワの木」である。前者はあまりに古くて買取りは無理であること、後者は近所からのクレームへの対処、と問題を抱えていた。これらを早急に解決しなければならない。

 ピアノについては、多くの買取り業者の広告が見られ、比較検討すれば良さそうである。しかし、買取り可能なピアノのブランド、型番はどこも同じで、我が家のピアノは当てはまらない。更なる問題は、ブランドがヤマハやカワイなどではなく、HITACHIだということである。つまり、このピアノは、父が勤めていた会社が社員向けに売っていたものなのである。一縷の望みは、「このピアノは ヤマハの製品だ」と父が言っていた記憶だけである。両親ともに亡くなっている今となっては聞くこともできない。

 まずは、ピアノの蓋を開け、中に書かれた型番を調べ、ヤマハに問い合わせてみた。案の定、そのような型番は存在しないという返事だった。そこで、ピアノの中に張り付いていた「調律検査カード」(YAMAHA PIANOのマーク付き)の写真を撮って送った。すると、引き取り可能の返信が来た。ただし、私が支払う引き取り料金はかなり高額である。それでも行先があるというのはありがたい。両親とともに思い出のピアノともお別れである。

 さて、ビワの木については、伐採だけでなく抜根までする必要がある。一体どれ位の費用がかかるものだろうか。どうも、我が家の木の太さと高さからすると、こちらもかなりの高額になりそうである。覚悟を決めて、いつも来てもらっている植木屋さんに頼むことにした。ただし、ビワの木に張り付くようにして物置を設置してしまっているので、根を切る抜根はできない。まずは伐採だけにした。作業は1時間もかからずに終わり、切り株だけになった。もうビワを食べることはできないが、近所迷惑にならなくて済むのは有難い。

 思い出は心の中に留めて、いずれはあの世に持っていく。それでいいのではないか。

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