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インドで70年前の日本を思い出した


2025.12.14


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 前回のコラムで述べたように、2025年11月下旬、インドの南部の都市ベンガルールの企業と大学を訪問した。世界で活躍しているIT人材を輩出しているインドの教育事情を知り、世界とのネットワークを拡大しながらビジネスを進めていく勢いに驚かされた。もうひとつ驚いたことがある。インドのシリコンバレーとも呼ばれるベンガルールのもう一つの顔である。それはまるで、私が子供だった時代(60年から70年前)の日本を思い起こさせるものだった。

 インドの国民の平均年齢は29歳だという。街を行く人たちはみな若い。私のような年寄など全く見かけない。それにしても人が多い。朝の通勤時間帯や夕方の退勤時間帯はもとより、昼間も道は人であふれている。移動のバスから見た私のインドの第一印象は「全部インド人だ。」だった。つまり、海外から来た人は一人も見かけなかったということである。日系企業で日本人を見たのが例外である。彫りの深い整った顔立ちをし、女性の大半は鮮やかなサリーを着ている。若い女性は、黒のパンツに色鮮やかな長めのワンピースが多い。ただし、男性は我々と同じような服装である。いずれも肩は出しても脚は出さない。

 車とバイクも多い。いつも渋滞していて、クラクションがうるさい。これは車同士がぶつからないように合図をしあっているらしい。渋滞している車道の車を通り抜けて通行人が渡っていく。しかし、信号機のあるところではそれを守り、事故や争いは一度も見かけなかった。街中に木々は多かったが、葉の色は埃にまみれてくすんでいた。総じて街中は埃っぽかった。インフラ整備のための工事中の箇所が多いせいだろう。渋滞解消のために建設中のメトロは完成時期が何年も遅れているようだ。それでも、人々は我慢して待っている。

 同行している人たち(もちろん私より若い技術者たちである)は、この街の風景を見て、「日本はきれいで良い」と実感したようだったが、私はむしろ懐かしさを感じた。60年から70年前の東京は、このように人であふれ、埃にまみれ、渋滞していた。それでも、人々は希望に満ち、目がキラキラしていた。今のベンガルールの人々のように。彼らの目もキラキラしていた。成長していく国というのはこういうものだと、改めて思った。

 帰国前にお土産を買うために日本で言うショッピングセンターやスーパーマーケットのようなものを探した。確かにあったが、どうみても高級デパートである。お客さんは殆どいない。値段もかなり高かった。上流階級か海外からの訪問者が来るのだろう。「普通のスーパー」をガイドブックで苦労して探していってみたら、会員制で入れてもらえなかった。そもそも一般の人が行く「普通のスーパー」も「コンビニ」もない。金持ちはショッピングセンターで、そうでない人たちは路上販売や屋台で買い物するのか。

 インドは宗教、文化、階級(カースト)で細かく分かれた複雑な構造をしているようだ。共通しているのは「家族」が一番大切ということらしい。だから、見合い結婚で同じ宗教、同じ階級の人と結婚して家族を広げている。それにより、助け合って生きていく。これもまた昔の日本を思い起こさせる実態に思えた。しかし、それはいつまで続くだろうか。

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