政治関係のニュースを見ていていつも疑問に思うことがある。何かしらの疑惑が持たれている人に「説明責任を果たすことを求める」とはどういう意味だろうか。単に、状況を説明すればよいわけではないだろう。最終的には、相手が説明内容を理解し、納得することだろう。でも、相手がたった一人でも言っていることを理解してもらうのは難しいのに、万人(例えば国民全体)が理解して納得するなんてできるのか。一体どれほどの時間がかかるのか。結局、不可能と分かっているのに『説明責任』という言葉で時間稼ぎをして、万人が忘れてくれることを願っているとすら思える。
企業においては、部署同士の合意形成や上司と部下の間の意思疎通のために、説明して理解を求め納得してもらう必要がある。それも、短い時間で決着をつけなければならない。私が企業で働いていた時には、様々な「根回し」が行われていた。そのために、交渉相手をよく知る必要がある。その場として「喫煙室(タバコ部屋)」や「飲み屋」が重要な場になっていた。タバコ部屋に入るために、体に悪いことは分かっていても禁煙できない人がいた。毎日同じ飲み屋にいて、情報収集に努めていた管理職の人もいた。このような体を張った仕事は昭和から平成までは当たり前だった。
私は、勤務していた企業の中ではほぼ初の管理職の女性だった。ロールモデルなどなく、男性管理職の真似をすることも嫌だった。その結果、根回しすることなく意思決定することが多かった。そのためにトラブルになることも多く、組織の秩序を乱すという評価をうけることもあった。当時、数少ない女性管理職がいずれも意思決定が速いことに気づいていた。私と同様に根回しをしていなかったのではないだろうか。根まわしの文化は男性中心のビジネス世界特有のものだったのかもしれない。
現代はタバコ部屋や飲み屋での交流がよしとされていないように見える。それに代わって、「説明をして理解してもらい納得してもらう」プロセスが求められるようになったのではないか。でも、それには時間がかかる。スピードが求められる時代において意思決定は速くなくてはならない。その答として出てきたのが次のような傾向ではないか。混とんとした状況、答えが見つかりづらい問題にぶつかったときに「シンプルに考えて突っ走ってしまう」ことである。例えば、「とにかく現状をぶち壊してしまおう」「将来のことよりも目先の価値を得たい」「犠牲を払う人がいたとしても強行しよう」などがある。せっかちな現代人が最終的に飛びつきたくなるものだが、かなり危険な兆候でもある。
最近、ブレないことをよしとする傾向が見られるのも気になる。本来、ビジネスや技術開発においては、多くの情報を得て、多くの人たちの知恵を集約して、多様な考え方を柔軟に取り入れることが求められる。変化が新たな創造に結びつくのである。しかし、変化することを「ブレる」と嫌い、何を言われても自分が正しいと主張し意見を変えない人を「ブレない人」として持ち上げることが多く見られる。そう感じるのは私だけだろうか。
万人が理解し納得するのを迅速に行うことは無理なのか。本当に難しい世の中だ。
自分の信念に従って行動する「高い志を持つ、市場価値の高い技術者」を育成します。
「市場価値の高い技術者の育成」を目指して、
コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
トップページ > コラム
万人の理解と納得を得るのは難しい
2024.11.10