人間の生きる価値に高低はない。全ての命は平等に価値がある。しかし、世の中に与える影響力という価値には差があるということ、それがお金の額で量られるということをまざまざと認識させられた。大谷選手の移籍のニュースである。さらに、これがスポーツや芸能の世界だけではないことにも改めて気づいた。技術者の世界でも同じなのだ。
丁度一年前の2022年12月22日の日経新聞の記事に、2022年の米国人気職業ランキングと言うものが出ていたのだが、その尺度が年収だった。記事ではランキングが前年から変化していることを報じていた。トップに躍り出たのは「エンタープライズアーキテクト」で、企業全体のシステムとビジネスの設計をする人材である。2位は圏外から飛び込んできた「フルスタックエンジニア」で、複数のプログラミング言語で開発を統括できる人材である。4位は「デブオプス(DevOps)エンジニア」で、システムの開発と運用を統合的に維持管理する人材である。一方で、これまでランキングの最上位にいた「データサイエンティスト」はじりじりとランクを下げていて3位である。さらに、前年にトップだったJavaプログラマはどこかに消えてしまった。
大谷選手の移籍ニュースと米国人気職業ランキングを並べてみたときに、明らかな共通点があることに気づいた。二刀流である。これまでは、一つの技術を極めた人の価値が高かったのだが、最近になって「複数の技術を極め、相乗効果を上げる人の価値が高い」という事態になっているのだ。情報システムだけではなくビジネスも設計できる人、複数のプログラミング言語を駆使できる人、情報システムの全ライフサイクルと周辺の技術を扱える人でなければ、現代の技術者としての価値は相対的に低くなってしまう。二刀流どころか三刀流も四刀流も求められる、すごい時代になったものだ。
一方、自分自身のことを思い起こしてみると、自己評価がどんどん落ちていることに気づく。40代、50代くらいまでは、仕事と家庭を両立させているすごい私、仕事をしながら大学院に行く努力家の私、などと自己評価は結構高かった。しかし、それも60代を過ぎて70代になったところで変わった。「仕事で大した成果は上げられなかった」「家事は下手だったし、子育ても満足のいくものではなかった」「学位は取ったものの研究の成果は殆ど無い」と、結果に対して疑問を持つようになったのだ。二刀流どころか一刀さえ満足に極められなかった情けない私という評価になってしまった。ひとつだけ救われるのは、私はその理由を自分自身の能力の無さと努力不足と考え、決して環境のせいにしていないことである。むしろ、「こんな能力のない努力家でもない私がここまで頑張って来られたのは、周囲から多くの支援があったからに違いない」とそう考えている。その結果、両親や故人になっている多くの先輩方に感謝する気持ちが高まっている。と同時に、ますますダメな自分自身が愛おしく思えるようになった。
ごく一握りの大きな価値を持つ人と自分を比較するのは意味がない。全ての人には価値がある。結果は自分の責任だ。各々が自分なりに努力をし、周囲に感謝していけばよいのだ。
自分の信念に従って行動する「高い志を持つ、市場価値の高い技術者」を育成します。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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2023.12.17