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マスクを外したら世界が変わった


2023.4.30


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 実は、密でない場所では内輪の集まりに限ってだが、かなり早い時期からマスクを外すようになっていた。例えば、ZOOMなどを使って会話ができていて顔が知られている場合なら、マスクを外すのはそれほど抵抗がなかった。ただ、大学で4月からの新学期の授業をマスクなしで行うのには勇気が必要だった。しかし、その効果は想像を超えていた。

 大学の授業では、コロナ禍が始まってからの3年間のうち完全リモートだった最初の年以外は、ハイブリッドまたは完全対面で教室において講義を行っていた。学生と教員の間にはアクリル板があり、教室内の全員がマスクをかけていた。現在も学生はほぼ全員がマスクをかけている。教室は広く、(学生はなぜか後に固まりたがるので)教員が居る教卓と学生の間には距離がある。アクリル板はいつの間にか無くなったが、不安を感じることは全くない。問題は「顔をさらすこと」への恐怖感である。

 この3年間、見知らぬ人に顔を見せることが殆ど無くなっていた。化粧も眉を描くだけになっていた。その結果だろうか、改めて鏡で顔を見たところ口元がたるんで皺だらけになっていた。年齢のせいとはいえこれはひどい。どうもマスク越しでの会話や講義では、口元を殆ど動かさず声だけを張り上げていたようだ。口元のリフトアップをしなければ、と昔購入した美顔器を引っぱり出してみたが、どうにも使う気にはならない。そのうち、新学期の講義が始まってしまい、私はマスクなし講義に挑戦することになった。

 マスクを外して話をしてみてまず気づいたのが「息苦しさがない」ということだった。それもあってか、身振り手振りが増えた。さらに、強調したい部分について語るところでは表情も大きく変化させられるようになった。なぜか、視界が開けて学生の顔が良く見えるようになった。最初の講義が終わった時、いつもより伝わったという感触を得た。マスク越しでの講義のときには100分話し続けると酸欠状態に陥ることもあったが、すっきりした感覚をとりもどした。なぜか学生からの質問も多く、手ごたえのようなものを感じた。

 次に、ウォーキング中でもマスクを外してみた。風が顔に当たるのが新鮮だった。特に口元が引き締まる感覚を覚えた。いつも見ている景色がより鮮やかに見えてきた。マスクをかけていると眼鏡が曇るせいで景色がぼやけていたのかもしれないが、外すことでそれ以上の効果があるように思える。いつの間にか、口元のリフトアップには美顔器よりもマスクを外す方が有効では、とすら思えるようになった。

 現在は、電車に乗るとき、他人とすれ違うことの多い街中、スーパーなどの商店、宅配便を受け取るときなどではマスクをかける。やはりコロナは終わっていないからである。また、多くの人がマスク姿なので人目を気にしてしまうという面もある。いくらコロナがインフルエンザと同じ扱いになっても感染は怖い。ワクチンは5回打っているものの、感染を防ぐことが出来ないのも分かっている。しかし、マスクを外すことで人間の本来持っているコミュニケーション能力を再度活性化できるのは事実である。言葉だけでは伝えられないことが沢山あることに我々は改めて気づくときが来たのではないか。

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