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言語コミュニケーションに新時代到来


2023.4.23


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 現在、全世代に共通の話題となっているのがチャットGPTに代表される対話型AIである。私のような高齢者の集まりでも、ビジネスマンの集まりでも、あいさつ代わりにこの話題が出る。チャットGPTに関心を持っているのはAIに関心のある理系の人だけではない。身近な困りごとを相談したり、俳句を作らせてみたり、飲み会の締めの挨拶を作ってもらったり、と多様なことが試されているようである。

 大学の新学期の講義で最初に出した「自分の関心のある職業、仕事を選び、それに有効な情報技術を挙げよ」というアンケートでは、職業、仕事は多種多様だったが、情報技術は圧倒的に対話型AI(チャットGPT)が多かった。ちなみに、同じ質問を半年ごとにしているのだが、半年前に話題だった「メタバース」はなぜか1つも出てこなかった。

 かつてこれほど多くの世代に共通した技術的な話題は見たことがない。数十年前、ATMでお金が下ろせたのは驚きの体験だった。個人で使えるコンピュータがオフィスに登場し、インターネットで世界とつながったのも、Googleマップでエジプトのピラミッドを見たのも、iPhoneの登場も衝撃だった。しかし、全世界の全世代に一瞬にして広がったとは言えない。なぜ対話型AIはこれほど急速に全世代の関心をさらったのか。そこに存在するのは「言語」という人類共通の要素があるからではないだろうか。

 ヒト(人類)という体力的には弱い種が地球で最強の種になれたのは、脳の発達があるのは当然だが、さらに、他の種にはない「言語」によって高度なコミュニケーションと思考ができるようになったことが大きいと考えている。言語コミュニケーションで、人類は様々な文化、科学技術を発展させてきた。対話型AIはまさに人類最大の武器である「言語」に新たな力を与える技術になっているのではないか。それは、地域も世代も超えた人類全体にとって大きな影響を与えるものであることは間違いない。

 言語に新たな力を与えることの意義は大きい。地域によって言語が違うことによる障壁はまもなく越えられるだろう。言語教育のありかたが変わって行くはずである。情報を言葉にする表現力も人間を超えつつある。人間に残されたものは心や感情を表現する力かもしれないが、対話型AIの方がよりうまくできるかもしれない。すると、人間のコミュニケーション能力が問われるのは表情や身振りなどの非言語の部分だけになるかもしれない。

 かつて手書きの手紙や葉書、電話でしか遠隔地への通信手段がなかったときは、筆跡、文字の乱れ、にじみ、声のトーンなどで本人確認や、本人の心の状態の把握などがほぼできていた。しかしこれからは、文字だけのしかも上手な文章が送られてきても、それが本人が書いたものかAIが作ったものかは分からない。AIは人間の心理状態と相手に与える影響も学習しているだろうから、言葉だけで相手の心を動かすことはますます巧みになるだろう。詐欺師にとってはこれ以上ない便利なツールに違いない。

 我々に求められているのは、情報の真偽を見極める力とAIを超える創造力だろう。それにはまだまだ脳を使わなければならない。脳まで退化してしまったら人類の未来はない。

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