3年間のコロナ禍を経て、大学における私の担当する授業のやり方が大きく変わった。最も大きいのが完全にペーパーレスになったことである。テキストはデジタル化したものを配信、講義中に新しい情報を画像で提供、試験もPCと授業支援システムを使って実施している。メリットが多いので、今後もこの方法を続けていくつもりである。
試験の具体的な方法は、限定された時間だけ問題を学生に開示し、テキストデータで作成した解答を授業支援システムにアップロードしてもらい、時間が来たら私がダウンロードするというものである。この方法を1年間続けたところ、トラブルは殆ど無く、採点は楽になり、何より解答と提出時刻の記録がサーバ上に残るので信頼性も増すことが分かった。ただし、この方法ではPCがネットにつながっているので、いくらでも情報検索ができてしまう。そこで、私の試験は「すべての情報の参照自由」とし、時間内であれば何でもできるようにして、その分、問題文と採点のしかたで大きな差がつくような工夫をしている。
最近、検索システムにAIの活用が拡大し、その結果として検索の自由度が増し、結果の精度が高まるということが話題になっている。例えば、試験中に試験問題をAIに伝えてチャット形式で解答を得るということが可能になるということである。これまでも検索は可能だったのだが、授業に出ず何も準備をせずに試験を受けた人の解答はすぐに分かった。私が講義で最も伝えたい内容として強調したことからずれた解答だったからである。しかも同じ内容の解答が複数出てくるので、検索でトップに出てきた内容をコピーしていることは明らかだった。さらに、かなり短時間で多くの問題に答えなければならないのでじっくり検索して、内容が問題にあっているかを吟味している時間はない。問題の趣旨を掴み、理解した上で自分の考えをしっかり記述した解答と評価に大きな差をつけることは可能だった。この図式が今後は変わってしまうのだろうか。また紙を配って鉛筆で解答を書かせて集める方法に戻すべきなのか。できればそれはしたくない。
私の出した結論は、問題の出し方でAIに対抗し、ペーパーレスの試験を継続しようというものである。私が試験で知りたいのは、私自身が講義の中で伝えたかったことをきちんと理解し、それに対して自分自身の意見を持っているかどうかである。決して一般論の開示や調査報告を求めているわけではない。従って、問題文だけからは私の心の中にある「伝えたかったこと」は読み取れない、講義に出て私の話を聞き理解して初めて趣旨が分かる問題にすればよい。問題文の意味についてAIにチャットで相談しても答は出るはずがない。何より限られた時間の中で多くの問題についてチャットを繰り返すことは不可能だろう。
振り返ってみれば、私は様々な方からアドバイスを得てキャリアを積上げてくることが出来た。その際、自分自身が考え抜いてポイントになる問題点を明らかにした上でアドバイスを求めると的確な答えを頂くことができた。試験においても、問題の趣旨を理解し自分の伝えたいことが明確にならなければ、AIの力を借りても的確な解答にはたどり着けないだろう。逆に、そこまで至ればAIに聞かずとも解答は殆どできているのだ。
自分の信念に従って行動する「高い志を持つ、市場価値の高い技術者」を育成します。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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AIに答えられないテスト問題作り
2023.2.19