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近未来の医療に恐怖を感じる


2022.06.12


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 原書で読んでいるために一向に終わりが見えなかったHomo Deus(ユヴァル・ノア・ハラリ著)だが、ようやくもう一息で最後の章というところまでたどりついた。とにかく英語力の乏しさに加えて、世界史の知識の無さが読むスピードの遅さに影響しているのだが、今更どうしようもない。一方で、バイオサイエンスとコンピュータテクノロジーの近未来の人類に対する影響に関する記述部分は、ヨーロッパの歴史の部分よりは速く読めた。ただ、恐怖で考え込むことも多かったのは事実である。

 私は誰よりも長生きしたい、それも自立した状態で、と強く願っている。そのために体と心の健康のためにかなりストイックな生活もしている。ただ、長生きするために次のことを勧められたら、「そんなことをするくらいなら死んだ方がましだ」と迷わず拒否するだろう。それは、体にセンサーを埋め込んで生体情報を逐次計測し、その数値に基づいて病気の状態を診断し治療を行うという医療である。

 多くの人がそれに同意するだろうと思われる。その主な理由としては、ハッカーによって身体情報が盗み取られ、さらには身体を制御されてしまうことを挙げるに違いない。でも私が心配するのはそれ以前の問題である。つまり、私の身体情報が正しく扱われるとしても、それを他人に知られ、それで私自身をコントロールされたくないということである。

 まず前提としてあるのは、自分の体について知られるのは恥ずかしいということである。自分の歯が何本残っているか、一日に何回トイレに行くか、どれくらいの頻度で白髪を染めるか、といったことですら他人には言いたくない。ましてや、ウェアラブル機器で測れる1時間おきの血圧の変化、血糖値の変化、心拍数の変化など数値で現れるものは、他人に知られるだけでなく自分でも知りたくない。なぜなら、それらを知ることで数値が気になって仕方がなくなり、最後は生活のすべてが数値にコントロールされるのが目に見えているからだ。私の望むのは心が安らかで、かつウキウキする何かを求め続ける生活なのだ。毎日毎時間数値を気にし、それらに心も体も支配されてまで長生きなどしたくない。

 さらに恐ろしいのは、脳にセンサーを埋め込んで、心の状態、つまり私が何を考え、何を望んでいるかまでデータとして取得されてしまうことである。それらをAIが読み取れば、頻度高く次のようなアドバイスをするだろう。

「あなたは若いつもりでいるようだが、脳はかなり委縮しており、骨の状態は悪化、動脈硬化が進んでおり、血圧の上昇と降下の幅が大きい。無理な運動を避けて、〇〇と△△を毎日服用するように。服用状況は常に把握しているのでごまかしてはいけない」。

 私はすぐにもシステムとの接続を切るだろう。若いと思っていてなにが悪いのだ。自分で気持ちがよいと思われる運動をして何が悪いのか。薬もサプリも飲みたくない。AIと張り合う自信はないが、自分の体は自分が一番よく知っている。自分は50歳台だと思い込むことは幻想でも、生活の質を上げるのにはサプリより有効だ。

 でも、腸閉塞が再発したらお医者さん助けてね。あの苦しみは二度と味わいたくない。

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