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情報フィルタリングの気づき


2022.03.20


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 週に一度は乗っている電車の車窓からぼんやりと景色を眺めていたら、建物の壁に大きく「ペットの霊園」と書かれているのが見えた。いつも目にしていたはずなのに全く気づかなかった。さらに、ウォーキングのルートで週一回は横切る国道沿いでも、同じペットの霊園の看板を見つけた。周辺にある「入れ歯にお悩みではありませんか」と問いかける歯科クリニックの看板や有料老人ホームの看板はいつも見ていたのに、全く目に入らなかった。なぜ急に気づくようになったのかは明らかである。2か月ほど前、たまたま散歩ルートの逆方向歩きをしたときにこのペットの霊園のことを知り、関心を持ったからである。私自身の視覚情報のフィルターが変化したのだろう。

 人は外部からの情報にかなり強いフィルターをかけているようだ。そうでもしなければ溢れる情報で脳がパンクしてしまうからだろう。そのフィルターは関心のあるものだけ通すように無意識のうちに変化するらしい。正しい情報かどうか確認し、偽情報に気を付けよう、とセキュリティ教育で強調するが、そもそもフィルターがかかってしまっているのだから、関心のない情報は最初からはねられている。よほど意識しないと対処は困難である。

 4月からの新学期が近づいてきた。授業の骨格や基本的な内容は昨年度と変えないが、最新のIT関連の情報を入れたい。例えば新たな情報化の取り組み、情報セキュリティの問題、将来に向けてのAIやIOTの技術的な進展などである。新聞の最新ニュースを毎日探っているのだが、なかなか見つからない。正確に言うとあるのだが「授業の話題にしたい情報ではない」ということである。つまり、情報化に関する話題が殆どロシアのウクライナ侵攻(戦争)に結びついているからである。ハイブリッド戦争、フェイクニュース、SNS遮断、など授業では扱いたくないものばかりである。IT関連の授業で取り上げたいのは、これをより良くすれば我々にこんな恩恵がある、というニュースである。戦争における情報化の進展は良い結果には結び付きそうにない。私自身のフィルターで意識的に除外したくなる。

 昨年度はコロナ渦にあって日本のデジタル化の遅れが明らかになった。でも、それを改善すればコロナを克服できる可能性がある、という形で授業に取り入れることができた。さらに、AIやIOTやメタバースなどで将来の生活に夢が持てる話題もあった。しかし、今はそんな話題が殆ど見つからない。このままでは、半年前の話題を取り上げるしかない。

 話を変えよう。私はひどい方向音痴で道に迷うことは日常茶飯事である。しかし、30年前、子供の中学の入学願書を出すために、一度しか行ったことのない学校までの道を早朝の真っ暗闇の中歩いた。かなりの距離だったが全く迷わずに学校までたどり着けた。20年前には、深夜まで会議が続いて未明になってしまい、都内の大学生の娘のアパートに泊めてもらうことにした。引っ越しの時一度しか行ったことのない場所だったにもかかわらず、駅から真っ暗闇の道を歩いて迷わず着くことができた。私にとっては奇跡としか言えない。人間は情報が入って来なくなると意外に正しく行動できるようになるのかもしれない。

 迷ったら情報を遮断して自分の心に聞いてみようか。人間の本能を信じて。



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