70歳で大学を定年退職し、完全な個人事業主となって3年目である。定年は60歳、65歳と計3回経験したが、前の2回はその後企業や大学に雇用されたので意識が大きく変わることはなかった。でも今回は違う。雇用されることは窮屈だった一方で、組織の一員として守られていたのだということを今更ながら実感している。個人事業主は孤独である。
私の仕事のほぼすべてが大学の非常勤講師である。今は、3つある担当授業のすべてが完全オンライン授業で、自宅からZOOMでリアルタイムに講義を配信している。これがかなりストレスになっている。あらゆるリスクを想定して対策を打たなければならないからである。トラブルが生じても誰も助けてくれない。想定リスクは増える一方になる。
ZOOMでの講義は時間との戦いである。開始時間に遅れることはもちろん許されない。100分の間は何があっても一人で講義をやり遂げなければならない。途中でwifiがつながらなくなったらどうしよう、PCの不具合が起きたらどうしよう、声が出なくなったらどうしよう、と何事にも慎重で心配性の私は、プランA、プランB、プランC・・・と延々と考え続けてしまう。その結果、私のPCは1年前からまた1台増えて5台になってしまった。
会社員だった頃は、仕事時間は今よりずっと長かったし、長距離通勤で睡眠時間はかなり少なく、いつも疲れていた。しかし孤独ではなかった。仕事の大半はプロジェクト形式で実施されていて、相談しながら行っていた。一人で担当する仕事であっても、上司や同僚に話を聞いてもらうことが出来た。使っている機器のトラブルがあれば担当部署に相談して対処してもらえた。今はすべて、自分の責任で自分ひとりで解決しなければならないのだ。
それでも、秋が深まると同時に少しずつ光を感じられるようになった。5台のPCたちのお陰である。昨年の今頃は、4台あるうちの2台は、暴走したり、ディスプレイに筋が入ったり、キー入力ができなくなったりで、ほぼ使い物にならなくなっていた。残りはデスクトップと新人君(ノート)であり、ほぼすべてを新人君に頼っていた。今年新たにもう一台の新人(ノート)が増えた。リスク回避のためである。すると、使えなかったはずの2台が気づいたら非常に元気になってしまっていた。どちらもZOOMで講義が可能である。つまり5台すべてが現役なのだ。各々、良いところがある。最も安定しているのが10年目になろうかというデスクトップである。立ち上がりが驚くほど速いもの、画面が美しいもの、キーボードの打ち間違いが起きづらいもの、日本語変換の上手なもの、などなど。それらをドラムセットでドラムを叩くように、毎日まんべんなく開いて使うようにしている。放っておくとへそを曲げて使えなくなる恐れがあるからである。
どこかの組織に所属していると楽な面もあるが甘えも生ずる。場合によってはトラブルを他人のせいにして逃げてしまうという悪い行動にもつながる。個人事業主は孤独ではあるが、自分の責任で仕事を行い、自分で問題を解決出来た時の喜びは大きい。収入は少なくても、仕事があって働き続けられることは生きている喜びにもつながる。サポート頼むよ、5台のパソコンたち。
自分の信念に従って行動する「高い志を持つ、市場価値の高い技術者」を育成します。
「市場価値の高い技術者の育成」を目指して、
コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
トップページ > コラム
個人事業主の孤独
2021.09.26