コロナウイルスはどんどん変異を繰り返し、したたかに強くなっているのに、人間の変化のスピードは驚くほど遅い。むしろ人間は変化を阻止しようという方向に走りがちである。私自身がそうで、できれば昨日と変わらずに自動的に行動ができれば楽だと考えがちである。変化するのにはエネルギーがいるし、ストレスも大きいからである。
1週間前、後期の授業で初めて使う演習用の教室を確認するために大学に行った。演習用の教室は2年前まで使っていたが、昨年は全面オンライン授業で使用しなかった。今年の後期になってハイブリッド授業になることを想定して、機材とZoom接続の確認をしておきたかったのである。教室に入って驚いた。想像していた教室の設備が2年前と全く違う。教卓も学生用の端末も机の配置までも。緊張しながら利用する予定の教師用PCのログインをしてみたが、気が遠くなるほど時間がかかった。Zoomの利用方法もこれまで慣れていたものと違っていて、私自身は混乱寸前であった。支援してくれるスタッフの方の話では昨年システムを全面入れ替えたとのこと。端末も含めて以前と違って当たり前だったのだ。でも私の意識としては当然「以前のままでいてほしかった」。
昨年初めからのコロナ渦で明らかになったのが『日本のデジタル化の遅れ』である。全国民対象の特別定額給付金の手続きに始まり、接触者確認アプリCOCOAの不具合、感染者、病床のデータの一元化ができていないことによる病床ひっ迫など、なんでこんなことが出来ないのかと思うことが頻発した。それに対して、デジタル庁が発足したのは解決に向けた追い風にはなるが、これらの問題解決には10年はかかるだろうと私は見ている。データ統合、システム統合は一朝一夕にはできるものではない。まして、日本の各所にできている既存のシステムはそれなりに最適化されていて、変えること、システム同士をつなぐことには多大なエネルギーを要する。システムを新たに構築するにしても既存のものを統合するにしても綿密な計画が必要である。安全な利用ができるためのリスク対策も重要課題である。殺虫剤をシュッと撒いたら結果がぞろぞろ出てくるゴキブリ退治とはわけが違う。
コロナ対策が後手に回っているとよく言われている。現在の感染の状況は2週間前のウイルスや人の行動が反映されたものだということも分かっている。これくらいの時間で目まぐるしく変化するコロナ渦に、変化を恐れて昨日と同じ行動がしたいと思う人間の意識の変革と、国家全体のシステム構築にかかる膨大な時間やコストが対抗するのは困難ではないか。つまり、対策を考えた時にはコロナウイルスはもう先を走っているのである。
ゆっくり進化した人間には他の生物にない知的機能が備わっている。今はまず自分の命を守ることを優先して、長期戦でコロナおよびこれから先やってくるであろう様々なリスクに対処できる技術の開発を進めるしかない。人間はすぐには進化できない。人間の時間の流れはコロナに比べものにならないくらい遅い。しかし、人間には知恵がある。これまで積み上げてきた知識がある。これらを駆使して生き延びていくしかないのだ。人間がウイルスに滅ぼされるなんてSFの世界だけにしてほしい。
自分の信念に従って行動する「高い志を持つ、市場価値の高い技術者」を育成します。
「市場価値の高い技術者の育成」を目指して、
コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
トップページ > コラム
コロナの時間と人間の時間
2021.09.12