ある日、パソコンを起動させようとパスワードを入れ始めたところで机からペンを落とし、動作が止まった。とたんにパスワードが何だったか思い出せなくなった。頭の中で組み立てなおしてゆっくり入力して起動させたが、無意識ならスムーズにできることが意識することで時間を食ってしまうことを改めて認識した。
過去に2度開腹手術をした。いずれも全身麻酔だった。麻酔をするところまではっきりと覚えているがそこからは無の世界である。声が聞こえ目を開けると家族が心配そうに顔を覗き込んでいるのに気付いた。やがて自分の手術が無事終わったこと、これから病室に行くのだということ、早く退院して仕事の遅れを取り戻さねばということを認識した。
無意識あるいは全身麻酔の状態から意識のある状態に変わるとき、脳内ではどのような変化が起こったのだろうか。それに対する答えを与える理論として(多分唯一)評価を得ているのがジュリオ・トノーニの「統合情報理論」である。本理論では意識の規準としてφ(ファイ)を使う。単位は情報と同じビットである。φを決定する要素は2つある。
@統合:要素間に相互作用があり分割が困難か否か
A多様な相互作用:刺激に対して均質ではない多様な反応があるか否か
例えば、システムの各要素が独立して機能していれば「統合」していないことになる。また、システムの各要素に相互作用があっても、各刺激に対してどの要素も同じ反応を示せば「多様な相互作用」の度合いは低くなる。両者のバランスが取れた状態でφは大きくなる。
統合情報理論にのっとって無意識(φが小)と意識(φが大)の状態の違いを考えてみたい。無意識の場合、独立して動作するか連携していても同じ動作をするので動作のスピードは速い。慣れれば速度は増す。逆に意識している状態では脳内の記憶を引き出し吟味しなければならないので動作は鈍くなる。しかし、動作の途中で突発的なことが起こっても別の手段で目的達成ができるので、行動に柔軟性が持たせられる。
ビジネスの世界で考えてみる。20世紀までは日本における経済成長の源は「効率化」だったように思う。組織を縦割りにして競争させ、仕事を標準化、均質化してこなすスピードを上げ、大量生産を推し進めた。ひょっとしたら、我々はφを小さくする無意識方向に突き進んでいたのではないのか。しかしこれでは柔軟性に乏しく新しいものを生み出す力もない組織になってしまう。環境問題や人口問題を抱える21世紀ではとても生き延びられない。
21世紀のビジネス成長に求められるのは「価値の創造」である。そのためには均質でない要素が連携して多様な価値を生み出す組織、すなわちφの大きな組織を作る必要がある。言い換えれば無意識の状態から意識の状態に変わるということである。
そんなことはとっくに分かっていたと多くの人が思っているはずだ。問題はここからである。どうやって組織を変えていけばよいのだろう。その答えも既に多くの人の頭の中にあるはずである。SDGsの多くの活動の中にも含まれている。やるかやらないか、が鍵なのだ。いつまでも深い眠りの中にいるわけにはいかない。
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コンサルティングと研修のサービスを提供します。
所長:石田厚子 技術士(情報工学部門)博士(工学)
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ビジネスを無意識から意識の状態へ
2020.12.06